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〒606-8585 京都市左京区松ケ崎御所海道町
京都工芸繊維大学 大学院工芸科学研究科
生命物質科学域 物質合成化学専攻
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1. 含フッ素発光材料の開発

▶︎フッ素系発光材料

 発光材料は私たちの身の回りで広く活用され,生活の上で必要不可欠な材料である。2008年のノーベル化学賞『緑色蛍光タンパク質の発見と応用』に代表されるように,発光性を有する有機化合物が注目を集めている。さらに最近では,有機ELディスプレイや有機発光ダイオードに見られるように多方面の機能材料として優れた特性に期待がもたれている。これまでに開発された発光性有機分子は希薄溶液で強く発光を示すため,バイオイメージングやバイオセンサーなどへ応用されている。一方,先に挙げた有機ELディスプレイなどへの応用には“基板上 (固体状態) で強く光らなければならない”。しかし残念ながら,これまでに開発された発光分子の多くは,濃度を濃くしたり,固体にすると分子間エネルギー移動による無輻射失活が促進され,急速に光らなくなる。
 広範な発光材料開発が実施された結果,Tangらは“凝集状態で劇的に発光強度が向上する材料 (Aggregation-Induced Emission: AIE材料)”の開発に成功し,従来困難とされていた“固体で光る有機分子”として,このジレンマを解決する道を切り開いた。つまり,分子が凝集したときにエネルギー移動をはじめ,分子運動 (回転や振動) による無輻射失活を抑制できるような分子設計をすれば良い。そのため最近までに多数のAIE分子が開発されるに至っている。
 そのような背景のもと,私たちも『フッ素の特異な性質を活用することによって,新たな発光材料を創製できる』と信じ,本研究をスタートさせた。はじめにこれまでに報告されているフッ素系発光材料について調査したところ,それほど多く知られていないのが現状であった (図1)。つまり,フッ素系材料は表面処理剤や耐候(光)性の壁材,電線の被覆剤など多方面で機能材料として実用されているが,“発光材料”としての開発は十分ではなかった。先に述べたとおり,フッ素原子のもつ全原子中で最大の電気陰性度や極端に小さな分極率といった特異性により,多彩な発光特性の発現に十分に期待がもてる。私たちの研究室では,こうした考えから,さまざまな発光色を実現できる含フッ素発光材料の開発に関する研究をスタートさせた。

▶︎含フッ素ビストラン誘導体

 発光分子を創製する最も重要な分子設計は,“π共役構造を組み込む”ことである。発光は分子が外部エネルギーによって励起したのち,基底状態へ戻るときに放出する光エネルギーである。つまり,外部エネルギーによって分子を励起状態へ遷移させる必要があり,そのためには分子の最高被占軌道 (HOMO) と最低空軌道 (LUMO) のエネルギーギャップを小さくしなければならず,そこで拡張したπ共役構造が重要となってくるのである。
 私たちは拡張したp共役構造を直線状にもつトラン (ジフェニルアセチレン) を母骨格としたπ共役分子へのフッ素導入によって,(1)フッ素の電子求引効果に起因する分子間電荷移動を伴った多彩な発光挙動,(2)分子間にはたらく静電相互作用による制御された分子配列,によって効果的な含フッ素発光分子として機能すると考えた。これらの分子は薗頭クロスカップリング反応および脱保護反応を繰り返すことで合成できる。初期検討により,メトキシ基を有する含フッ素トランおよびビストラン誘導体がそれぞれ溶液中で強い青色の発光を示し,興味深いことに,それらが固体状態でも発光特性を保持していることを明らかにした。この知見はペンタフルオロフェニル基を有する含フッ素トランおよびビストラン誘導体が,分子分散系だけでなく分子凝集系でも発光する“固体発光材料”として機能することを明示している。観察される発光色と分子の電子状態の関係を明らかにすれば,“欲しい色で発光する分子を自在に創る”ことができるようになる。そこで私たちは分子の電子状態を変化させた含フッ素π共役分子を合成し,それぞれの発光挙動を精査することとした。詳細な検討の結果,類似の官能基 (たとえば,アミノ基) であれば,電子供与性の大きさに応じて,発光色がパラレルに変化することを明らかにした。また,分子内の双極子モーメントが大きくなると,分子が強く分極するため,溶媒の極性に応じて発光色が変化することも見出した (図2)。つまり,含フッ素ビストラン誘導体は,フッ素の強い電子求引効果によって,分子分極を強め,それによって固体状態や希薄溶液状態での多彩な発光色を示すことに成功した。

含フッ素ビストラン誘導体の固体発光特性に関する論文
Yamada, S. et al. J. Fluorine Chem. 2017, 202, 54 (DOI: 10.1016/j.jfluchem.2017.09.003).

2. 含フッ素発光性液晶分子の開発

▶︎発光性と液晶性の融合

 私たちの生活で必要不可欠な家電にテレビやスマートフォンがある。それらのディスプレイの多くは液晶材料が使われている。これはディスプレイ内部に液晶分子が組み込まれ,電圧のON/OFFに応答して液晶分子が並び方を変化させることで,光の透過量を調節しながら像を投影するディスプレイである。このお湯に“液晶”は外部エネルギーに応答して分子の配列を変化できる分子集合体であり,さまざまな応用を可能とするソフトマテリアルとして広く知られている。先述のとおり,AIE分子では分子間相互作用のはたらく凝集体では強く発光し,相互作用を受けない分子分散系では発光を示さない:分子間相互作用の程度によって発光挙動が変化する!ことが容易に理解できる。
 そこで発光分子が液晶性を示す場合,結晶⇄液晶⇄等方相(液体)と分子の集合状態を変化させることで,それぞれの分子間相互作用に応じて多彩な発光色を示すことが予想できる。すなわち,単一の分子素材でさまざまな発光挙動を示すマルチカラー発光材料として機能できる。また,集合状態の相変化を熱あるいは電圧によって変化させた場合,それぞれ温度に応じた発光となり,温度センサーなどの発光センシング材料としての応用も可能となる。このように発光性と液晶性を融合することで,従来の特性に新たな機能を付加できるため新規な多機能材料開発が容易になる。このような考えから,私たちの研究室では発光性と液晶性を兼ね備えた新材料の開発をスタートさせました。

▶︎ビストラン型含フッ素発光性液晶分子の開発

 これまでにメトキシ置換含フッ素ビストラン誘導体が希薄溶液および結晶状態で強く青色に発光することを明らかにしている。はじめにこのメトキシ置換含フッ素ビストラン誘導体の結晶を用いて,偏光顕微鏡にて相転移挙動を観察したところ,結晶相と等方相の中間に流動性の明視野な光学組織が観察され,液晶性を発現していることが明らかになった。すなわち,思い掛けず,含フッ素ビストラン誘導体が発光性と液晶性を兼ね備えた分子であることを見出し,さらなる詳細な検討を行った。
 はじめに分子末端のアルコキシ鎖長をメトキシから1炭素ずつ伸長させ,ヘキシルオキシ置換誘導体まで6種類の分子を合成し,それぞれの液晶挙動と発光特性を調査した。その結果,C1からC3までは単一の液晶層が観測され,光学組織から“ネマチック液晶相”を発現していることがわかった (右図:C1の液晶相における偏光顕微鏡観察)。一方,C4からC6ではシュリーレン様の光学組織を示すネマチック液晶だけでなく,扇状組織を示すスメクチックA相とよばれる液晶相を発現することを明らかにした。これはアルコキシ鎖長が長くなるにつれて,アルコキシ鎖間のファンデルワールス力が強くはたらき,分子が高次の秩序構造を形成しやすくなったためだと考えている。
 次に,発光挙動の調査を行った。はじめに溶液状態ではいずれも同一波長に発光極大をもつ青色発光を示した。一方,結晶状態では興味深いことに,アルコキシ鎖長の変化に伴い,発光色が変化する結果となった。いずれも同様の電子状態であるにも関わらず,発光波長が変化したという事実は,結晶状態における分子の集合状態の変化が敏感に発光特性に影響していることを示唆している。この結果を受けて,液晶相における発光挙動を調べたところ,結晶⇄スメクチック(Sm)A⇄ネマチック(N),そして希薄溶液でいずれも異なる発光挙動を示し,熱刺激を加えることで単一分子素材が多彩な発光色を放出できる熱刺激応答性マルチカラー発光材料として機能できることを明らかにした。

含フッ素ビストラン型発光性液晶分子に関する論文
Yamada, S. et al. Org. Biomol. Chem. 2017, 15, 5949 (DOI: 10.1039/c7ob01369h).

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